制御構造はおそらくPL/pgSQLの最も有用(かつ重要)な部分です。 PL/pgSQLの制御構造を使用して、PostgreSQLのデータを非常に柔軟、強力に操作することができます
関数からデータを返すために使用できるコマンドが2つあります。 RETURNおよびRETURN NEXTです。
RETURN expression;
式を後に付けたRETURNは関数を終了し、expressionの値を呼び出し元に返します。 この形式は集合を返さないPL/pgSQL関数で使用されます。
スカラ型を返す場合は任意の式を使用することができます。 この式の結果は、代入のところで説明したように、自動的に関数の戻り値の型にキャストされます。 複合(行)値を返すためには、expressionとしてレコードもしくは行変数を記述しなければなりません。
出力パラメータを持った関数を宣言したときは、式の無いRETURNを記述してください。 その時点における出力パラメータの値が返されます。
voidを返すように関数を宣言した場合でも、 関数を直ちに抜け出すためにRETURNを使用できますが、 RETURNの後に式を記述しないでください。
関数の戻り値は未定義とさせたままにすることはできません。 制御が、RETURN文が見つからない状態で関数の最上位のブロックの終わりまで達した時、実行時エラーが発生します。 しかし、この制限は出力パラメータを持った関数及びvoidを返す関数には当てはまりません。 このような場合は最上位のブロックが終わったとき、 RETURN文が自動的に実行されます。
RETURN NEXT expression;
PL/pgSQL関数がSETOF sometypeを返すように宣言した場合、後続の処理が多少違います。 この場合、戻り値の個々の項目は、RETURN NEXTコマンドで指定されます。 そして、引数のない最後のRETURNコマンドにより、関数が実行を終了したことが示されます。 RETURN NEXTは、スカラ型および複合型の両方で使用することができます。 複合型の場合、結果の"テーブル"全体が返されます。
実際には、RETURN NEXTは関数から戻りません。 単に式の値を保存しているだけです。 そして、その実行はPL/pgSQL関数内の次の文に継続します。 RETURN NEXTコマンドが連続して実行されると、結果集合が作成されます。 最後の、引数を持ってはならないRETURNにより、関数の終了を制御します。 (または制御が関数の最後に移ることができます)。
出力パラメータを持った関数を宣言したときは、式の無いRETURN NEXTだけを記述してください。 その時点における出力パラメータの値が、万が一関数から戻されなければならない場合に備えて保存されます。 出力パラメータを持った集合を返す関数を作成するためには、出力パラメータが複数のときはSETOF recordを返すように関数を宣言し、唯一のsometype型の出力パラメータのときはSETOF sometypeを返すように関数を宣言しなければならないことに注意してください。
RETURN NEXTを使用する関数は、以下のような形式で呼び出されます。
SELECT * FROM some_func();
つまり、この関数はFROM句でテーブルのソースとして使用されなければなりません。
注意: 上記のように、PL/pgSQLにおけるRETURN NEXTの現在の実装では、関数から返される前に結果集合全体を保管します。 これにより、PL/pgSQL関数が非常に大量の結果集合を返した場合、性能が低下する可能性があります。 メモリの消耗を避けるため、データはディスクに書き込まれます。 しかし、関数自体は結果集合全体が生成されるまでは返りません。 将来のPL/pgSQLのバージョンでは、この制限を受けずに集合を返す関数をユーザが定義できるようになるかもしれません。 現在、ディスクに書き込まれるデータの開始点はwork_mem設定変数によって制御されています。 大量の結果集合を保管するのに十分なメモリがある場合、管理者はこのパラメータの値を大きくすることを考慮すべきです。
IF文はある条件に基づいてコマンドを実行させます。 PL/pgSQLには、以下のような5つのIFの形式があります。
IF ... THEN
IF ... THEN ... ELSE
IF ... THEN ... ELSE IF
IF ... THEN ... ELSIF ... THEN ... ELSE
IF ... THEN ... ELSEIF ... THEN ... ELSE
IF boolean-expression THEN statements END IF;
IF-THEN文は、最も単純なIFの形式です。THENとEND IFの間の文が条件が真の場合に実行されます。 さもなければそれらは飛ばされます。
例:
IF v_user_id <> 0 THEN UPDATE users SET email = v_email WHERE user_id = v_user_id; END IF;
IF boolean-expression THEN statements ELSE statements END IF;
IF-THEN-ELSE文はIF-THENに加え、条件評価が偽の場合に実行すべき文の集合を指定させることができます。
例:
IF parentid IS NULL OR parentid = '' THEN RETURN fullname; ELSE RETURN hp_true_filename(parentid) || '/' || fullname; END IF;
IF v_count > 0 THEN INSERT INTO users_count (count) VALUES (v_count); RETURN 't'; ELSE RETURN 'f'; END IF;
以下の例のようにIF文は入れ子にすることができます。
IF demo_row.sex = 'm' THEN pretty_sex := 'man'; ELSE IF demo_row.sex = 'f' THEN pretty_sex := 'woman'; END IF; END IF;
この形式を使用する場合、実際にIF文を外側のIF文のELSEの部分の内側に入れ子にしています。 したがって、入れ子にしたIFごとに1つのEND IF文が、その親となるIF-ELSEに1つのEND IF文が必要です。 これにより正常に動作できますが、検査すべき候補が多くある場合は冗長になります。 その結果、次の形式です。
IF boolean-expression THEN statements [ ELSIF boolean-expression THEN statements [ ELSIF boolean-expression THEN statements ...]] [ ELSE statements ] END IF;
IF-THEN-ELSIF-ELSEは、ある文に多くの代替手段がある場合のチェックに、より便利な方法を提供します。 形としては、IF-THEN-ELSE-IF-THENコマンドを入れ子にしたものと同じですが、必要なEND IFは1つだけです。
以下に例を示します。
IF number = 0 THEN result := 'zero'; ELSIF number > 0 THEN result := 'positive'; ELSIF number < 0 THEN result := 'negative'; ELSE -- ふうむ、残る唯一の可能性はその値がNULLであることだ result := 'NULL'; END IF;
ELSEIFはELSIFの別名です。
LOOP、EXIT、CONTINUE、WHILE、FOR文を使用して、PL/pgSQL関数で、一連のコマンド群を繰り返すことができます。
[ <<label>> ] LOOP statements END LOOP [ label ];
LOOPは、EXIT文またはRETURN文によって終了されるまで無限に繰り返される、条件なしのループを定義します。 オプションのlabelは、入れ子状ループ内のEXIT及びCONTINUE文で、どのレベルの入れ子に適用するかを指定するために使用されます。
EXIT [ label ] [ WHEN expression ];
labelが指定されない場合、最も内側のループを終わらせ、END LOOPの次の文がその後に実行されます。 label が指定された場合、それは現在のループ、もしくは入れ子になったループやブロックの外側のレベルのラベルである必要があります。 その後、指名されたループまたはブロックを終わらせ、そのループまたはブロックの対応するENDの次の文に制御を移します。
WHENが指定された場合、expressionが真の場合のみループの終了が起こります。 さもなければ、EXITの後の行に制御が移ります。
EXITは、あらゆるループと共に使用でき、条件なしのループに限定されません。 BEGINブロックと共に使用したとき、EXITによりブロックの次の文に制御が移ります。
例:
LOOP -- 何らかの演算 IF count > 0 THEN EXIT; -- ループを抜け出す END IF; END LOOP; LOOP -- 何らかの演算 EXIT WHEN count > 0; -- 上例と同じ結果 END LOOP; BEGIN -- 何らかの演算 IF stocks > 100000 THEN EXIT; -- これによりBEGINブロックを抜け出す END IF; END;
CONTINUE [ label ] [ WHEN expression ];
labelが無い場合、すぐ外側のループの次の繰り返しが開始されます。 すなわち、制御がループ制御式(もし存在すれば)に戻り、ループ本体は再評価されます。 labelが存在する場合、実行を継続するループのラベルを指定します。
WHENが指定された場合、expressionが真の場合のみループにおける次の繰り返しが始まります。 さもなければ、CONTINUEの後の行に制御が移ります。
CONTINUEは全ての種類のループで使用可能です。 条件なしのループに限定されません。
例
LOOP -- 何らかの演算 EXIT WHEN count > 100; CONTINUE WHEN count < 50; -- 50から100を数える、何らかの演算 END LOOP;
[ <<label>> ] WHILE expression LOOP statements END LOOP [ label ];
WHILE文は条件式の評価が真である間、文の並びを繰り返します。 条件は、ループ本体に入る前にのみチェックされます。
以下に例を示します。
WHILE amount_owed > 0 AND gift_certificate_balance > 0 LOOP -- ここで演算をいくつか行います。 END LOOP; WHILE NOT boolean_expression LOOP -- ここで演算をいくつか行います。 END LOOP;
[ <<label>> ] FOR name IN [ REVERSE ] expression .. expression [ BY expression ] LOOP statements END LOOP [ label ];
この形式のFORは整数値の範囲を繰り返すループを生成します。 name変数はinteger型として自動的に定義され、ループ内部のみで存在します (ループ外部で定義しても、ループ内部では全て無視されます)。 範囲の下限、上限として与えられる2つの式はループに入った時に一度だけ評価されます。 BY句を指定しないときの繰り返し刻みは 1ですが、BY句を用いて指定できます。 REVERSEが指定された場合、繰り返し刻みの値は負となります。
整数FORループの例を以下に示します。
FOR i IN 1..10 LOOP -- ここで演算をいくつか行います。 RAISE NOTICE 'i is %', i; END LOOP; FOR i IN REVERSE 10..1 LOOP -- ここで演算をいくつか行います。 END LOOP; FOR i IN REVERSE 10..1 BY 2 LOOP -- ここで演算をいくつか行います。 RAISE NOTICE 'i is %', i; END LOOP;
下限が上限よりも大きい(REVERSEの場合はより小さい)場合、ループ本体はまったく実行されません。 エラーは発生しません。
別の種類のFORループを使用して、問い合わせの結果を繰り返し、そのデータを扱うことができます。 以下に構文を示します。
[ <<label>> ] FOR target IN query LOOP statements END LOOP [ label ];
targetは、レコード変数、行変数またはカンマで区切ったスカラ変数のリストです。 targetには順次、queryの結果の全ての行が代入され、各行に対してループ本体が実行されます。 以下に例を示します。
CREATE FUNCTION cs_refresh_mviews() RETURNS integer AS $$ DECLARE mviews RECORD; BEGIN PERFORM cs_log('Refreshing materialized views...'); FOR mviews IN SELECT * FROM cs_materialized_views ORDER BY sort_key LOOP -- ここで"mviews"はcs_materialized_viewsの1つのレコードを持ちます PERFORM cs_log('Refreshing materialized view ' || quote_ident(mviews.mv_name) || ' ...'); EXECUTE 'TRUNCATE TABLE ' || quote_ident(mviews.mv_name); EXECUTE 'INSERT INTO ' || quote_ident(mviews.mv_name) || ' ' || mviews.mv_query; END LOOP; PERFORM cs_log('Done refreshing materialized views.'); RETURN 1; END; $$ LANGUAGE plpgsql;
このループがEXIT文で終了した場合、最後に割り当てられた行の値はループを抜けた後でもアクセスすることができます。
この型のFOR文のqueryとして、行を返す全てのSQLコマンドを使用できます。 通常はSELECTですが、RETURNING句を伴ったINSERT、UPDATEまたはDELETEも使用できます。 EXPLAINなどのユーティリティコマンドも作動します。
FOR-IN-EXECUTE 文は行を繰り返すもう1つの方法です。
[ <<label>> ] FOR target IN EXECUTE text_expression LOOP statements END LOOP [ label ];
この方法は、問い合わせのソースが文字列式で指定される点を除き、前の形式と似ています。 この式はFORループの各エントリで評価され、再計画が行われます。 これにより、プログラマは、通常のEXECUTE文と同じように事前に計画された問い合わせによる高速性と、動的な問い合わせの持つ柔軟性を選択することができます。
注意: 現在PL/pgSQLパーサはこの(整数または問い合わせ結果という)2種類のFORループを、次のような方法で区別しています。 それはINとLOOPの間に、括弧を含む時は括弧の外側に、..記号が存在するか否かというものです。 もし..記号がなければ、問い合わせ結果FORループであると仮定します。 そのため、..記号の誤記によって、"loop variable of loop over rows must be a record or row variable or list of scalar variables"(問い合わせ結果のループ変数は、レコードか行変数かスカラ変数のリストでなければなりません)というエラーメッセージがよく出ます。 単純な構文エラーにもかかわらず、予想されるメッセージと異なります。
デフォルトでは、PL/pgSQL関数の内部で発生したエラーは関数の実行を中止し、実際に周辺のトランザクションをアボートします。 BEGINブロックおよびEXCEPTION句を使用すれば、エラーを捕捉してその状態から回復できます。 その構文は通常のBEGINブロックの構文を拡張したものです。
[ <<label>> ] [ DECLARE declarations ] BEGIN statements EXCEPTION WHEN condition [ OR condition ... ] THEN handler_statements [ WHEN condition [ OR condition ... ] THEN handler_statements ... ] END;
エラーが発生しない時、この形式のブロックは単に全てのstatementsを実行し、ENDの次の文に制御が移ります。 しかし、statementsの内部でエラーが発生すると、それ以後のstatementsにおける処理は中断され、EXCEPTIONに示した一覧に制御が移ります。 そして一覧の中から、発生したエラーと合致する最初のconditionを探します。 合致するものがあれば、対応するhandler_statementsを実行し、ENDの次の文に制御が移ります。 合致するものがなければ、EXCEPTION句が存在しないのと同じで、エラーは外側に波及します。 EXCEPTIONを含んだ外側のブロックはエラーを捕捉できますが、失敗すると関数の処理は中断されます。
全ての状態名は付録Aに示すことができます。 分類名はそこに分類される全てのエラーに合致します。 OTHERSという特別の状態名はQUERY_CANCELED以外の全てのエラーに合致します (QUERY_CANCELEDを名前で捕捉することは可能ですが、賢明ではありません)。 状態名は、大文字と小文字を区別しません。
エラーが該当するhandler_statements内部で新たに発生した時、EXCEPTION句はそのエラーを捕捉できずエラーは外側に波及します。 なお、外側のEXCEPTION句は、そのエラーを捕捉できます。
EXCEPTION句がエラーを捕捉した時、PL/pgSQL関数のローカル変数はエラーが起こった後の状態を保ちます。 しかし、ブロック内部における永続的なデータベースの状態は、ロールバックされます。 そのような例を以下に示します。
INSERT INTO mytab(firstname, lastname) VALUES('Tom', 'Jones'); BEGIN UPDATE mytab SET firstname = 'Joe' WHERE lastname = 'Jones'; x := x + 1; y := x / 0; EXCEPTION WHEN division_by_zero THEN RAISE NOTICE 'caught division_by_zero'; RETURN x; END;
制御が変数yの代入に移ると、ゼロで割るためdivision_by_zeroエラーとなり、EXCEPTION句がそのエラーを捕捉します。 RETURN文による関数の戻り値は、1を加算した後のxの値となりますが、UPDATEコマンドによる結果はロールバックされます。 しかし、BEGINブロックの前のINSERTコマンドはロールバックされません。 したがって、データベースの内容の最終結果はTom Jonesであり、Joe Jonesではありません。
ティップ: EXCEPTION句を含んだブロックの実行に要する時間は、含まないブロックに比べてとても長くなります。 したがって、必要のない時にEXCEPTIONを使用してはいけません。
例外ハンドラの内部では、SQLSTATE変数が起こった例外に対応したエラーコードを保有します。 (表A-1のエラーコード表を参照してください)。 SQLERRM変数は例外に対応したエラーメッセージを保有します。 これらの変数は、例外ハンドラの外部では定義されていません。
例 37-1. UPDATE/INSERTの例外
これはUPDATEまたはINSERTの実行における例外処理を使用した適当な例題です。
CREATE TABLE db (a INT PRIMARY KEY, b TEXT); CREATE FUNCTION merge_db(key INT, data TEXT) RETURNS VOID AS $$ BEGIN LOOP UPDATE db SET b = data WHERE a = key; IF found THEN RETURN; END IF; BEGIN INSERT INTO db(a,b) VALUES (key, data); RETURN; EXCEPTION WHEN unique_violation THEN -- 何もしない END; END LOOP; END; $$ LANGUAGE plpgsql; SELECT merge_db(1, 'david'); SELECT merge_db(1, 'dennis');